「ブランド力は、もう通用しない」── その時、広告デザインの価値はどうなる?
- 3月18日
- 読了時間: 8分

衝撃的な見出し
「ブランド力は、もう通用しない」
この言葉を放ったのは、あの星野リゾートの代表・星野佳路氏です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD279Y30X21C25A0000000/
日経新聞の記事を読んだ時、正直、背筋がゾッとしました。
星野リゾートが18億円を投じたのは、豪華な広告キャンペーンでも、映えるWebサイトでもない。
「AIに読ませるためのデータ整備」だというのです。
予約システム「FleBOL(フレボル)」という名前のそれは、「Flexible Booking On Line」の略。
客室、食事、アクティビティを自由に組み合わせて予約でき、予約後の変更もオンラインで完結するシステムです。
でも、なぜそんなものに18億円も?
この問いに対する星野氏の答えが、マーケティングに関わるすべての人間を震え上がらせるものでした。
ブランドとは「脳の節約術」だった
従来の「ブランド」とは何だったのか。
星野氏の見解はこうです。
ブランドとは、人間の記憶力の限界を補うためのショートカットに過ぎなかった。
「全部比較するのは無理だから、とりあえず有名な星野リゾートにしておこう」
これが、人間の脳が日常的にやっている「認知的節約」です。
情報が多すぎる。
選択肢が多すぎる。
だから、脳は「ブランド」というラベルを使って判断を簡略化してきたわけです。
高級感がある。
有名だ。
失敗しなさそう。
こうした「イメージ」が、消費者の意思決定を左右してきた。
そして、私たちデザイナーは、まさにその「イメージ」を作る仕事をしてきたわけです。
AIには「記憶の限界」がない
ところが、AIにはその「記憶の限界」がありません。
AIは先入観なしに、世界中の選択肢から「ファクト」だけを見て、ユーザーに最適な解を瞬時に出します。
「この日程で、この予算で、この人数で、子連れでも安心な宿は?」
と聞けば、AIは世界中のホテルを一瞬で比較し、最適な答えを返してくれる。
そこに「歴史」や「雰囲気」や「憧れ」といった情緒的価値が入り込む余地は——
正直、かなり狭くなります。
必要なのは「キャンセル料の規定」「設備スペック」「アクセス手段」といった、AIが処理できる冷徹なデータ。
「なんとなくいい感じ」では、もはやAIは選んでくれないのです。
JNTO(政府観光局)で起きた衝撃の事実
星野リゾートだけではありません。
日本政府観光局(JNTO)でも、興味深い変化が起きています。
彼らが発見したのは、こういうことでした。
きれいな富士山の写真よりも、「無機質なFAQ」の方がAIに好まれる。

どういうことか?
従来のマーケティングでは、美しいビジュアルで「行きたい!」と思わせることが正解でした。
雄大な富士山の写真。
美しい桜並木。
温泉につかる外国人観光客の笑顔。
でも、AIはそんなものを見ません。
見ているのは——
・この観光地へのアクセス方法は?
・営業時間は?
・入場料は?
・英語対応はあるか?
・車椅子の方は利用可能か?
こうした「構造化されたデータ」です。
そして衝撃的なことに、FAQページからの流入が半年で25倍になったというのです。
これは偶然ではありません。
AIが参照しやすいデータを整備した結果です。
「イメージ」で売る時代の終焉
ここまで読んで、デザイナーとして正直に言います。
かなりショックでした。
私はこれまで、クライアントのために「イメージ」を作ってきました。
高級感のあるビジュアル。
ブランドの世界観を伝えるキービジュアル。
一目で「いいな」と思わせるバナー広告。
それが価値だと信じてきました。
でも、AIが選択の主導権を握る時代が来たら——
その「イメージ」は、誰のために作っているのでしょうか?
AIは、きれいな写真に心を動かされません。
AIは、キャッチコピーに共感しません。
AIは、ただ「ファクト」を処理するだけです。
じゃあ、広告デザインは「終わり」なのか?
ここで、ちょっと立ち止まって考えてみます。
本当に広告デザインは価値がなくなったのか?
正直に言えば、私の答えは「No」です。
でも、その理由は少し複雑です。
理由1:人間は「最終的に」自分で決める
AIがどれだけ優れた提案をしても、最終的にお金を払うのは人間です。
そして人間は、最後の最後で「感情」で決める生き物です。
AIに「このホテルがおすすめです」と言われても、公式サイトを見て「なんか違うな」と思ったら、別のホテルを選ぶ。
逆に、AIのレコメンドに入っていなくても、たまたまSNSで見かけた美しい写真に心を奪われて、そっちを選ぶこともある。
つまり、「AIの提案リストに入る」ことと「最終的に選ばれる」ことは別の話なのです。
デザインの役割は、後者——「最終的に選ばれる」ための説得力を作ること。
ここは、まだ人間の仕事です。
理由2:すべてがAI経由になるわけではない
2025年の今、まだ多くの人は自分で検索して、自分で比較して、自分で決めています。
AIに旅行の相談をする人は確かに増えていますが、全員がそうしているわけではありません。
特に日本では、まだまだ「自分で調べる派」が主流です。
ただし——
これは「今は」の話です。
5年後、10年後には状況が変わっている可能性は大いにあります。
理由3:ブランドは「AIに選ばれる」ためにも必要
AIが選択肢を絞り込む時、「ブランド力」は本当にゼロになるのでしょうか?
実は、そうとも言い切れません。
なぜなら、AIが参照するデータの中には、レビューや口コミも含まれるからです。
「星野リゾートは高い評価が多い」「リピーターが多い」「顧客満足度が高い」
こうしたデータは、AIの判断材料になります。
そして、こうした評価を生み出すのは——
結局のところ、顧客体験です。
顧客体験を支えるのは、空間デザインであり、コミュニケーションデザインであり、ブランディングです。
つまり、デザインは「AIに選ばれるためのファクトを作る」ためにも、依然として必要なのです。
変わるべきは「デザインの自己認識」
ここまで考えてきて、私が感じることがあります。
デザインの価値がなくなるわけではない。
でも、「何のためにデザインするのか」を再定義する必要がある。
従来:イメージを作って「なんとなくいい」と思わせる
これから:ファクトを支える体験を設計し、選ばれる理由を作る
この違いは大きいです。
従来のデザイナーは「見た目」を作る人でした。
でもこれからのデザイナーは「選ばれる構造」を設計する人になる必要があります。
LLMO/GEOという新領域
ここで、少し専門的な話をします。
今、マーケティング業界で注目されている概念があります。
LLMO(Large Language Model Optimization)
GEO(Generative Engine Optimization)
簡単に言えば、「AIに自社の情報を正しく理解させ、ユーザーへのレコメンドに含めてもらうための最適化」です。
従来のSEO(検索エンジン最適化)は、Googleの検索結果で上位に表示されることが目的でした。
でも、これからはそれだけでは足りません。
ChatGPTやClaude、Geminiといった生成AIが「どの情報を参照するか」「どのブランドをおすすめするか」を左右する時代が来ています。
そのためには——
・構造化されたデータの整備
・正確で網羅的なFAQ
・AIが理解しやすい情報設計
これらが、従来の「美しいビジュアル」と同じか、それ以上に重要になるのです。
私たちデザイナーが今日からできること
じゃあ、具体的に何をすればいいのか。
私なりに考えてみました。
1. 「ビジュアル至上主義」から脱却する
きれいなものを作れば仕事は完了——
この考え方は、もう通用しません。
「このデザインは、どんなファクトを伝えているのか?」
「AIに参照された時、どんな情報として処理されるのか?」
こうした視点を持つ必要があります。
2. 構成設計力を磨く
ワイヤーフレームやコピーライティングの領域まで踏み込む。
なぜなら、AIが読み取るのはテキスト情報だからです。
美しいバナーを作るだけでなく、
「そのページに何が書いてあるべきか」
「どんなFAQを用意すべきか」
まで提案できるデザイナーが求められます。
3. AI時代の「ブランディング」を再定義する
従来のブランディング:イメージを作る
AI時代のブランディング:選ばれる理由を設計する
具体的には——
・顧客体験の設計
・口コミを生むサービスデザイン
・AIに評価されるデータ整備
これらすべてが「ブランディング」になっていく可能性があります。
終わりではなく、変容
最後に、個人的な思いを書かせてください。
星野リゾートの星野氏が「ブランド力は通用しない」と言った時——
私は最初、恐怖を感じました。
でも、よく考えてみると——
これは「終わり」ではなく「変容」なのだと思います。
デザインの役割は変わります。
でも、デザインが不要になるわけではありません。
むしろ——
「なぜデザインするのか」を深く考えられるデザイナー
「見た目」だけでなく「選ばれる構造」を設計できるデザイナー
AIが読み取れるデータを意識した設計ができるデザイナー
こうした人材は、これまで以上に求められるはずです。
私たちの仕事は「きれいなものを作る」から「選ばれる仕組みを設計する」へとシフトしていくでしょう。
怖いですか?
正直、私は怖いです。
でも同時に、ワクワクもしています。
なぜなら——
変化があるところには、必ずチャンスがあるからです。
「ブランド力は通用しない」と言われた時——
それを「終わり」と捉えるか、「始まり」と捉えるか。
その違いが、これからのデザイナーの明暗を分けるのかもしれません。
参考情報
日経新聞「AIはブランドを無効にする 星野リゾート、変革への備え」
星野リゾート新予約システム「FleBOL」(18億円投資)
JNTO(政府観光局)のAI対応事例
LLMO/GEO(生成AI時代のSEO新概念)
関連ノート
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AI時代のデザイナー生存戦略
AI時代のデザイナーの役割変容
課題を構造化するデザイナー


