マーケティングは完璧だった。それでも「ジャングリア」が気づかせてくれた、その先にある問題
- 3月20日
- 読了時間: 16分

こんにちは、Space Production(スペースプロダクション)です。
今回は、最近ずっと考えていたことを書いてみます。
あくまでも私個人の見解です。
テーマパーク業界の専門家でもありませんし、
ジャングリアにまだ行けていない状態で書いている、ということも
最初にお断りしておきます。
正直に言うと、ジャングリアのプロモーション映像を初めて見たとき、ワクワクしました。
CGで描かれた沖縄の大自然の中に、恐竜が暴れまわるアトラクション。
空を滑空する絶叫系ライド。
森の中を疾走するジープ。
画面越しでも「これは本物だ」と思わせるスケール感があって、
「沖縄に行く理由がまた一つ増えた」と素直に思ったんです。
メディア展開も完璧でした。
テレビでは芸能人がアトラクションを体験する番組が各局で流れて、
SNSでも話題になっていた。
森岡毅さんが14年かけて計画したプロジェクト。
「マーケティングの神様」と呼ばれる人が本気で仕掛けたんだから、
これは間違いないだろうと。
でも、実際に開業した後のGoogleの口コミを見て、
その期待は少し揺らぎました。
「期待していたものと違う」「しょぼかった」——そんな声が続出していたんです。
2026年2月時点で、専門家からは100億円規模の赤字になるという予測まで出ています。
同じく森岡さんが手がけたイマーシブ・フォート東京も、
わずか2年、累積赤字62億円で閉館しました。
プロモーションは完璧だった。
それでも、苦戦している。
最初は「森岡さんでもうまくいかないことがあるんだ」くらいの感想でした。
でも考えれば考えるほど、
これは単なるテーマパーク業界の話じゃなくて、
自分のデザインの仕事にも、
そしてAI時代のクリエイティブの未来にも、
直結する問題だと気づいたんです。
グラフィックデザイナーとして20年近くやってきた自分にとって、
まったく他人事じゃない話でした。
「行きたい」は、完璧に作れていた

まず誤解のないように言っておきたいのですが、
ジャングリアのプロモーション戦略そのものは、
間違いなく一流だったと思います。
森岡毅さんは、USJをV字回復させた実績を持つマーケティングのプロ中のプロです。
2010年にUSJに入社した当時、年間入場者数は約750万人。
それを退社する2016年には1,390万人にまで拡大させています。
映画だけのテーマパークという制約を外し、
ハリーポッターエリアを導入し、
ファミリー層を取り込む——
その大胆な戦略眼は、本当にすごいと思っています。
ジャングリアでも、その手腕は遺憾なく発揮されていました。
CGで表現されたプロモーション映像は圧倒的で、
「絶対行ってみたい」と思わせる力があった。
テレビ、SNS、Web——
メディアを横断した認知戦略も完璧で、
ほとんどの日本人が「ジャングリア」の名前を知っているレベルまで
持っていったと思います。
マーケティングの教科書に載せてもいいくらい、
「行きたい」を作ることには成功していたと私は思います。
自分もデザイナーとして「こういう仕掛け方ができるのか」と感心したくらいです。
問題は、その先でした。
「行ってよかった」にならなかった理由
来場した方々から指摘されたのは、ディテールのギャップでした。
先に書いておくと、
私自身はまだジャングリアに行けていません。
ここから先は、実際に来場された方の声と、
テレビで見た映像から感じた個人的な印象の話になります。
夏の猛暑の中で屋外を長時間待たされる動線の問題。
アトラクション数に対して広すぎる敷地。
恐竜の造形、植栽の密度、空間の没入感——
一つ一つの粒度のクオリティが、CGで描いた理想と乖離しているという声がありました。
私が個人的にギャップを感じたのは、
TV番組でアトラクションや施設の実映像を見たときのことです。
プロモーションで使われていたCGの映像——
大自然の中に溶け込む恐竜、
緑豊かな森の中でダイナミックに動くライド、
木々に囲まれた開放的なレストランで食事を楽しむ人々——
あの世界観と、番組で映し出された実際の映像を見比べたとき、
明らかな温度差を感じてしまったんです。
「あれ、なんか思ってたのと違うな」
その瞬間、正直「ジャングリアに行かなくてもいいかな」と思ってしまいました。
もちろん、実際に行って「よかった」「楽しかった」という声も多くあります。
あくまでこれは、テレビで実際の映像を見たときに感じた、
私個人のギャップの話です。
デザイナーの目で見ると、この「温度差」がどこから生まれるか、なんとなくわかります。
たとえば恐竜の造形一つとっても、
皮膚のテクスチャの作り込み、
色の塗りムラの自然さ、
動きの滑らかさ——
こういう細部の積み重ねが「本物感」を左右するんです。
CGでは完璧に表現できたものが、
実物のスケールに落とし込んだときに、
そのクオリティを維持できるかどうか。
ここに、途方もないコストと技術力が必要になります。
Googleの口コミでは「しょぼい」「がっかり」といった直接的な表現が目立ちましたが、
来場者が感じたのは「CGで見たあの世界と、目の前にある現実が、違う」
ということだったのだと思います。
18年前に見た、同じ構造
実はこの感覚、自分には覚えがあるんです。
2007年、自分がまだ若いときの話です。
当時、NTTドコモがソフトバンクへのユーザー流出で苦戦していて、
「DoCoMo 2.0」という大型キャンペーンを打ち出しました。
CMを手がけたのはTUGBOAT(タグボート)——
電通から独立した岡康道さんたちが設立した、日本初のクリエイティブエージェンシーです。
当時の広告業界では「TUGBOATが作った」というだけで、
クオリティが保証されたようなもの。
デザインや広告に関わる人間なら誰もが一目置く存在でした。

キャッチコピーは「さて、そろそろ反撃してもいいですか?」。
浅野忠信、長瀬智也、妻夫木聡、蒼井優、北川景子——
当時の人気俳優・女優が総動員されて、
CMの好感度は3ヶ月連続で1位。
あのCMを見たとき、正直ドキドキしました。
「ドコモが何かすごいことをやらかすんじゃないか」と。
乗り換えようかなと本気で思ったんです。
でも、実際に発表されたラインナップは
「ちょっと画素数が上がった、いつも通りのアップデート」でした。
がっかりしました。
「反撃って、これだけ?」と思った。
プロモーションが最高にかっこよかっただけに、落差が大きかった。
結果はどうなったか。
ネット上では「DoCoMo 2.0」が「ドコモに移転ゼロ」と揶揄されたくらいです。
あれだけの認知を作ったのに、ユーザーの心は動かなかった。
18年前のあの経験と、2025年のジャングリアの話。
時代も業界もまったく違うのに、構造がそっくりのように思えました。
プロモーションで期待を最大限に膨らませて、
でもプロダクトがそれに応えられなかった。
同じ構造は、イマーシブ・フォート東京でも起きていました。
2024年3月にオープンし、2026年2月28日に閉館。
わずか2年です。
閉館の理由として森岡さん率いる「刀」が発表したのは
「施設規模が過大だった」という説明でした。
当初の想定では「ライトな体験を楽しむ層が7割、ディープな体験を求める層が3割」を
見込んでいたのに、実際にはその比率が逆になってしまった。
でも、自分がデザイナーとして気になるのは、
市場の読み違いという戦略レベルの話だけではありません。
3万平方メートルの施設を全て没入型体験で埋めるという設計に対して、
そのスケールのコンテンツを「作り込む」ためのリソースが、
本当に足りていたのかどうか?
プロモーションは優秀でした。
オープン前から話題を作り、認知も達成した。
自分も「面白そうだな、行ってみたいな」と思わせてもらった一人です。
実際には行けていないのですが、行きたいと思わせる力は確かにあった。
でも、実際に来た人が「また行きたい」とならなかった。
リピートと口コミが生まれなかった。
ここに、自分がずっと仕事で感じてきた「ある構造」と同じものを見てしまったんです。
USJとの決定的な違い
同じ森岡毅さんが携わったプロジェクトで、
なぜUSJは成功してジャングリアは苦戦しているのか。
ここが今回、自分にとって一番考えさせられたところです。
USJのV字回復では、森岡さんの大胆な戦略眼が注目されがちです。
映画縛りを外す、ハリーポッターを導入する、ファミリー層に舵を切る。
その判断はすごい。
ただ、忘れてはいけないのは、USJにはもともとハリウッド品質の制作チームがいたということです。
アトラクションの石畳の質感。
建物の経年劣化の微細な再現。
ライドの動線設計。
照明の一つ一つに至るまで。
あの「本物感」を生み出しているのは、戦略ではなく、現場の職人たちの目と手なんです。
森岡さんの功績は、その職人チームに「正しいお題」を渡したこと。
「ハリーポッターの世界を完璧に再現してくれ」というお題があったとき、
それを実現できるチームがすでにそこにいた。
ジャングリアは新規プロジェクトです。
その「職人レイヤー」を一から積み上げなければならなかった。
14年かけて計画したとはいえ、
ディテールを作り込むチームの練度は、一朝一夕で手に入るものではありません。
USJの制作チームは何十年もかけて、失敗と改善を繰り返しながら
「あのレベル」にたどり着いているわけです。
これは自分の仕事でも身に覚えがあります。
新しいクライアントとの最初の仕事では、どうしてもまだ手探りの部分がある。
でも2回目、3回目と重ねていくうちに、
言葉にならない部分まで汲み取れるようになっていく。
その積み重ねが「ディテールの力」の正体なんだと思います。
整理するとこうなります。
USJの成功 = 森岡さんの戦略眼 × USJ職人チームのディテール力
ジャングリアの苦戦 = 森岡さんの戦略眼 × ディテール力の不足
掛け算の片方がゼロに近ければ、もう片方がどんなに優秀でも結果は出ない。
マーケティングがどれだけ優れていても、
プロダクトのクオリティとディテールが伴わなければ、
リピートも口コミも生まれない。
この構造、テーマパーク業界だけの話ではないと思っています。
デザインも、ブランディングも、サービス業も、同じ原理で動いています。
デザイナーとして、他人事じゃない理由

ここからは、自分の話です。
グラフィックデザイナーとして20年近くやってきて、
まったく同じ構造を何度も見てきました。
たとえば、飲食店のクライアントさんから
「メニューとチラシをリニューアルしたい」という依頼をいただいたとき。
実際にお店に伺うと、料理は本当に美味しいし、店主のこだわりも伝わってくる。
でも、それまでのメニューやチラシがそのこだわりを全然伝えきれていない。
写真のクオリティ、紙面のレイアウト、フォント選び——
一つ一つのディテールが追いついていなかった。
こういうケース、実は世の中にすごく多いんです。
プロダクトは真面目に良いものを作っているのに、伝え方がわからない。
見せ方がわからない。
だから誰にも気づかれない。
地道に技術を磨いてきた職人さん、
地方で丁寧にものづくりをしている会社、
個人で始めた小さなブランド——
「中身はいいのに伝わっていない」という状況が、
現実のビジネスの大半を占めていると思います。
一方で、逆のパターンもあります。
ビジュアルはすごくキレイに仕上がったのに、
実際のサービスを体験したお客さんが「なんか思ってたのと違う」と感じてしまうケース。
Webサイトの写真が綺麗すぎて、実店舗に行ったときの落差にがっかりされる。
パンフレットの世界観が素敵すぎて、実際のサービスがそこに追いつかない。
どちらも、「期待を作る力」と「期待に応える力」のバランスが崩れたときに起きる現象です。
自分自身の仕事を振り返っても、このバランスにはいつも神経を使っています。
クライアントから素材をもらって、プロモーション用のビジュアルを作る。
できるだけ魅力的に見せたい。
でも「盛りすぎ」てしまうと、実際の商品やサービスとのギャップが生まれて、
結局は「思ってたのと違う」になる。
かといって控えめに作りすぎると、せっかくの良いプロダクトの魅力が伝わらない。
このさじ加減が、デザイナーの仕事の核心だと思っています。
クライアントが何を欲しがっているか察して、形にする。
ヒアリングのときの声のトーンや表情から、言葉になっていない部分まで汲み取る。
そして見せたときに「あ、これこれ」って言ってもらう。
20年かけて積み上げてきたのは、このコミュニケーションの精度なんです。
チラシのデザインがいくら良くても、
お店に行ったときの空間の仕上がりがイマイチだったら、リピーターは生まれない。
Webサイトがいくら洗練されていても、
実際のサービスが雑だったら、口コミは広がらない。
ジャングリアの話を見ていて改めて思ったのは、
「見せ方」と「中身」は掛け算なんだ、ということです。
片方だけが突出していても、もう片方が足を引っ張ったら、結果は出ない。
デザイナーとしてビジュアルを作る立場にいるからこそ、
この構造には敏感でいなければいけないと感じました。
そして、クライアントの「中身」の良さを正直に、でも最大限魅力的に伝えること。
それが自分の役割なんだと、改めて思ったんです。
AI時代に、この構造がどう変わるか
ここからが、デザイナーとしてもっと切実な話になります。
いま、AIの進化によって「期待を作る」コストが急速に下がっています。
マーケティングの仕事を分解すると、
市場分析、ペルソナ設計、KPI設計、A/Bテスト最適化、メディアプランニング——
これらはすべてロジカルな情報整理と最適化の仕事で、
AIの得意分野のど真ん中です。
実際にマーケターの88%がすでにAIを日常的に使っていて、
AI活用のキャンペーンは従来手法より22%高い成果を出しているというデータもあります。
つまり、「それっぽいプロモーション」を作ること自体は、誰でもできる時代になりつつある。
そうなると何が起きるか。
消費者の目が肥えていくんです。
「プロモーション映えするけど中身がスカスカ」を見破る感覚が、
受け手側にどんどん育っていく。
ジャングリアのCGプロモーションと実物のギャップが大きな話題になったのは、
まさにその先行事例だと思っています。
一方で、「期待に応える」力——プロダクトのクオリティ、空間のディテール、ビジュアルの仕上がり——こちらのコストは簡単には下がらない。
デザインの現場でAIを使ってみると、
ロジカルに情報を整理する仕事——
情報の優先順位をつける、
要素をグルーピングする、
メッセージを構造化する——
これは確かにAIがものすごく得意です。
正直「AIの方が早いし正確かもしれない」と感じる場面も増えてきました。
でも、それを実際のビジュアルに落とし込む段階になると、
途端に「なんか惜しい」「なんか野暮ったい」が出てくる。
色の微妙なトーン。
余白の気持ちよさ。
フォント一つで変わる空気感。
その「なんか」の部分を、AIはまだ自分では判断できないんです。
自分もデザインの仕事でAIを使い始めていますが、
まだ完全に使いこなせているわけじゃありません。
試行錯誤の真っ最中です。
でも、使えば使うほど感じるのは、
「構成を考える」部分と「ビジュアルに落とし込む」部分では、
AIの得意不得意がはっきり分かれるということです。
ここから一つ、重要な変化が見えてきます。
マーケティングの実行コストがAIによって下がると、
小さな会社でも個人でも「それっぽいプロモーション」が作れるようになります。
今まで大企業しかできなかったレベルのメディア戦略やキャンペーン設計が、
AIの力で手の届く範囲に入ってくる。
そうなると、市場には「それっぽいプロモーション」があふれかえるわけです。
消費者は毎日のように洗練された広告やキャンペーンを浴びせられる。
すると何が起きるか。
「プロモーションが綺麗なのは当たり前」になる。
そして「見た目は良さそうだけど、本当にいいものなの?」という嗅覚が、
受け手側にどんどん育っていく。
ジャングリアのCGプロモーションと実物のギャップが大きな話題になったのは、
まさにその流れの先行事例だと思っています。
だから、こう考えています。
AI時代において、「期待を作る」仕事のコストは下がり続ける。
でも「期待に応える」仕事——
プロダクトのクオリティ、ビジュアルのディテール、世界観の作り込み——
の価値は、むしろ上がっていく。
「期待を作る」のが簡単になればなるほど、
「期待に応える」力を持つ人間の希少性が増していく。
デザイナーの仕事で言えば、
クライアントの商品やサービスの「本物の良さ」を見極めて、
それをビジュアルとして正直に、でも最大限に魅力的に伝えること。
プロモーション映像と実物のギャップを作らないこと。
むしろ「写真で見たときよりも、実物の方が良かった」と思わせるような落とし込みをすること。
これはデザイナーにとって、厳しい現実であると同時に、一つの希望でもあると思っています。
AIがロジカルな構成をカバーしてくれるなら、自分はもっとディテールの質にこだわれる。
クライアントとの対話に時間を使える。
そう前向きに捉えています。
まとめ——掛け算の両方が揃わないと、成功しない
長くなりましたが、今回ジャングリアの話を通じて自分なりに考えたことを整理します。
「期待を作る力」×「期待に応える力」。この掛け算の両方が揃って、はじめて成功する。
USJが成功したのは、森岡さんの戦略眼と、現場の職人チームのディテール力が、
両方揃ったからだと私なりに解釈しています。
ジャングリアが苦戦しているのは、戦略は一流だったのに、ディテールが追いつかなかったから。
これは自分の仕事にもそのまま当てはまります。
デザインがどんなに良くても、
サービスの中身が伴わなければリピーターは生まれない。
逆に、サービスが素晴らしくても、
見せ方がわからなければ誰にも気づいてもらえない。
AI時代になって、「期待を作る」コストはどんどん下がっていきます。
誰でも「それっぽいプロモーション」が作れるようになる。
だからこそ、ディテールを作り込む力——
ビジュアルの仕上がり、空間の質感、世界観の一貫性——
そういう「期待に応える」力が、これまで以上に大事になっていくと思っています。
自分がデザイナーとして目指すべきは、
この掛け算の「応える」側をちゃんと担える存在でいること。
クライアントの商品やサービスの良さを、ビジュアルとして正直に伝えること。
「期待」と「現実」のギャップを作らないこと。
むしろ、現実が期待を超えるようなビジュアルの落とし込みをすること。
完全にそのポジションに立てているかというと、正直まだ試行錯誤の真っ最中です。
AIをどこまで活用して、どこから先は自分の目と手で仕上げるべきか。
そのラインは日々動いていて、正解はまだ見えていません。
でも、ジャングリアの一件で、改めて確信したことがあります。
プロモーションがどれだけ華やかでも、
ディテールが追いつかなければ人は離れていく。
逆に、見せ方は不器用でも、本物のクオリティがあれば人はついてくる。
この原則は、AIがどれだけ進化しても変わらないだろうと。
「期待を作る」はAIに任せる時代が来ても、「期待に応える」のは人間の仕事です。
その人間でいるために、一つ一つのディテールにこだわり続けたいと思います。
それが、20年デザイナーをやってきた自分なりの答えです。


