AIに仕事を奪われた?いや、"目"を持たない人が自滅しただけだった
- 3月18日
- 読了時間: 13分

先日、ちょっと複雑な気持ちになる出来事がありました。
いつも定期的にスライドデザインの案件をいただいていたクライアントから、しばらく連絡がなかったのです。「最近どうしたのかな」と思ってそのクライアントのWebサイトを見てみたところ、私が過去に作ったデザインをベースに、AIツールでバリエーションを量産していたことが判明しました。
これが、いわゆる「AIに仕事を奪われた」という体験なのかもしれません。
でも、私がショックを受けたのは「仕事を奪われた」ことではありませんでした。もっと別のことに気づいてしまったのです。
AIに仕事を奪われたのか?
結論から言うと、部分的にはYesです。でも、それは私が想像していたものとは少し違いました。
発見の経緯
そのクライアントは中国の工場で製造しているプロダクトを日本市場で販売しているメーカーです。私は以前から、そのプロダクトのスライドデザイン(販促資料、ECサイト用画像など)を担当していました。
案件が来なくなって「どうしたのかな」と思い、先方のWebサイトを確認してみると、私が作ったデザインの構図やレイアウトをそのまま使いながら、AIツール(おそらく7B Banana Proのような画像生成AI)でバリエーションを展開していたのです。
データが示す現実
実は、このような体験をしているのは私だけではありません。
ITmediaの記事によると、日本フリーランスリーグが芸術・芸能系フリーランス約5000人を対象に行ったアンケートでは、以下のような結果が出ています。
| 項目 | 結果 |
|------|------|
| 生成AIに脅威を感じている | 88%以上 |
| 収入が10〜50%程度減った | 9.3% |
| 収入が50%以上減った | 2.7% |
| 生成AIを利用しておらず、今後も予定なし | 62.9% |
特にデザイナーからは、「生成AIのロゴ生成機能がうまくなった結果、自身のデザインがコンペなどで採用されにくくなった」というコメントも寄せられているそうです。
また、ワシントン大学などの研究チームの解析によると、画像生成AI(DALL-E、Midjourney)の公開後、デザイン・画像編集系の仕事が月3.7%減少、収入も9.4%減少したことが確認されています。
私の体験も、このデータの一部なのでしょう。
なぜ「8割ダサい」と感じたのか?
AIが生成したデザインの8割がダサいと感じた理由は、ブランドの文脈を無視した「とりあえず目立つ」デザインになっていたからです。
クライアントがAIで作ったバリエーションを見て、正直に言うと「8割ダサい」と感じました。残りの2割は「まあ、こういうアプローチもあるかな」と思えるものでしたが、大半は私が2年かけて作り上げた世界観を壊しているように見えました。
何が「ダサい」のか
具体的に何が問題だったのかを言語化してみます。
1. 中国プロダクト感が出てしまっている
そのクライアントの商品は中国で製造されていますが、日本市場向けに販売しています。私がデザインを担当していたときは、「日本のユーザーが信頼できる」「品質が良さそうに見える」という印象を意識して、ミニマルで洗練された方向性を作っていました。
しかしAIが生成したバリエーションは、どこか「海外の安物」感が出てしまっていました。派手な色使い、詰め込みすぎのレイアウト、チープなグラデーション。瞬間的には目立つかもしれませんが、ブランドとしての統一感や信頼感が損なわれている印象を受けました。
2. 文脈を無視した「とりあえず目立つ」デザイン
AIは「目立つデザイン」を作るのは得意です。でも、「このブランドにとって何が目立つべきか」を判断することはできません。
例えば、高級感を売りにしているプロダクトなのに、安売りセールのような派手な装飾が入っている。商品の特徴を伝えるべき場所に、意味のないグラフィック要素が入っている。
「目立たせる」と「下品に目立つ」は違います。その線引きができていないのです。
3. 世界観の一貫性がない
私が2年かけて作ってきたのは、単なる「デザイン」ではなく「世界観」でした。
このブランドなら、この色使い。このブランドなら、この余白の取り方。このブランドなら、この写真のトーン。そういった一貫性があるからこそ、ユーザーは「このブランドらしいな」と感じ、信頼してくれるわけです。
AIで量産されたバリエーションには、その一貫性がありませんでした。一つひとつは「それっぽい」デザインなのですが、並べてみるとバラバラ。ブランドとしてのアイデンティティが感じられないのです。
短期的な目立ちvs長期的なブランディング
クライアントの気持ちもわからなくはありません。
おそらく「もっと目立たせたい」「もっと売上を伸ばしたい」という意図があったのでしょう。AIでバリエーションを量産すれば、A/Bテストも簡単にできますし、「どれが一番クリックされるか」をデータで検証できます。
でも、瞬間的なクリック率と、長期的なブランド価値は別物です。
「なんか派手で目立つからクリックした」と「このブランドは信頼できるから買った」は、まったく違う購買行動です。前者を追求しすぎると、後者を失うことになりかねません。
これは私の予測ですが、このまま「瞬間的に目立つ」方向でブランディングを壊し続けると、長期的には顧客離れにつながるのではないかと思っています。
本当にショックだったのは何だったのか?
AIに仕事を奪われたことではなく、クライアントがダサいデザインを「これでいい」と選んだことでした。
ここまで読んで、「結局デザイナーのポジショントークでしょ」と思われたかもしれません。確かにその側面はあります。自分の仕事が減ったわけですから、AIを批判したくなる気持ちはあります。でも、私が本当にショックだったのは、別のことでした。
「AIに奪われた」より「選ばれなかった」ショック
正直に言います。
AIがダサいものを作ったこと自体は、まあしょうがないと思いました。AIはまだ発展途上ですし、文脈を読むことは苦手です。
私がショックだったのは、クライアントがそのダサいものを「これでいい」と選んだことです。
8割ダサいバリエーションの中から、ダサいものを選んで公開している。私が2年かけて作った世界観の価値を理解していないまま、それを壊す選択をしている。
「そんなこともわかんないで、俺にデザイン頼んでたのか」
これが、正直な気持ちでした。
「良し悪し」は伝わっていなかった
デザイナーとして20年やってきて、「良いデザイン」と「悪いデザイン」の違いは感覚でわかるようになりました。
でも、その「感覚」はクライアントには伝わっていなかったのかもしれません。
私は「このデザインがなぜ良いのか」を、きちんと言語化して伝えていたでしょうか。「このブランドにとって、この世界観がなぜ重要なのか」を、クライアントが理解できる形で説明していたでしょうか。
もしかしたら、私の方にも反省すべき点があるのかもしれません。
AIは何が得意で、何ができないのか?

この体験を通じて、AIの「得意・不得意」がより明確に見えてきました。
AIが得意なこと
バリエーションの量産
これはもう、人間が太刀打ちできないレベルです。
私が1つのデザインを作る間に、AIは100パターンでも200パターンでも生成できます。A/Bテスト用のバリエーション、色違い、レイアウト違い。こういった「ベースがあった上での展開」は、AIの独壇場です。
ある意味、今回のクライアントの判断は合理的だったのかもしれません。私が作った「ベース」があるからこそ、AIでバリエーションを量産できた。私への発注を減らせば、コストも削減できる。
ビジネス的には、正しい判断とも言えます。
「それっぽい」デザインの生成
AIは膨大なデザインデータを学習しているので、「それっぽい」ものを作るのは得意です。
「ポップな感じで」と言えばポップなものを、「高級感のある感じで」と言えば高級感のあるものを、それなりに出してきます。
ただ、「それっぽい」と「最適」は違います。ここが重要です。
AIができないこと
文脈を読んで「最適解」を出すこと
「このブランドにとって、何が最適か」を判断するには、文脈を読む必要があります。
このブランドのターゲットは誰か
競合との差別化ポイントは何か
今までどんな世界観を作ってきたか
このプロダクトの強みと弱みは何か
日本市場でどう見られたいか
こういった文脈を総合的に判断して「だからこのデザインが最適」と結論を出すのは、まだAIには難しい領域です。
「ダサい」を判断すること
AIはバリエーションを量産できますが、「どれがダサいか」を判断することはできません。
100パターン生成して、その中から「これはダメ」「これは良い」と選ぶのは、人間の仕事です。
今回のクライアントの問題は、その「選ぶ」部分で躓いていたことでした。
「0→1」のデザインを作ること
AIは「既存のものを参考にして新しいものを作る」のは得意ですが、「何もないところから最初の正解を作る」のはまだ苦手です。
今回のクライアントも、私が作った「土台」があったからこそ、AIでバリエーションを展開できました。もし私のデザインがなかったら、そもそも「何を作ればいいか」がわからなかったはずです。
「このブランドにとって、最初の一歩はどんなデザインであるべきか」
この問いに答えるには、ブランドの本質を理解し、市場を理解し、ユーザーを理解し、それらを統合して「形」にする必要があります。これは、まだAIには難しい領域です。
私自身もAIを使っている
ここで正直に言っておきます。
私自身、AIエージェントやClaude Codeなど、AI技術を積極的に学んで活用しようとしています。AIを否定しているわけではありません。
むしろ、AIを使いこなせるデザイナーになりたいと思っています。
では、私と今回のクライアントの違いは何か。
「選ぶ目」を持っているかどうかです。
私がAIでバリエーションを作るとしても、その中から「これはダメ」「これは良い」を判断できます。20年間鍛えてきた「目」があるからです。
でも、その「目」がないままAIを使うと、ダサいものを「これでいい」と選んでしまう。今回のクライアントがまさにそうでした。
AIは道具です。道具は使う人によって、価値にも害にもなります。
これからのデザイナーに必要な「審美眼」とは?

では、AI時代にデザイナーに求められるのは何でしょうか。
私の答えは「審美眼」です。もっと具体的に言うと、「目利き力」です。
20年間の「目の筋トレ」
「良いデザイン」と「悪いデザイン」を見分ける力は、一朝一夕には身につきません。
私がこの20年間でやってきたことを振り返ると、以下のようなことです。
1. ひたすら良いものを見る
テレビCM、映画、雑誌、街の看板、Webサイト、パッケージデザイン。日常で目に入るあらゆるデザインを、ただ見るのではなく「観察」してきました。
「なぜこのCMは印象に残るのか」「なぜこの看板はわかりにくいのか」「なぜこのパッケージは手に取りたくなるのか」
そういった問いを自分に投げかけながら、無意識に「目を鍛えて」きたのだと思います。
2. 実践で失敗する
「これがいい」と思って作ったものが、クライアントに「違う」と言われる。その繰り返しでした。
なぜ違ったのか。何がダメだったのか。クライアントが本当に求めていたものは何だったのか。
そういった「失敗からの学び」が、目を鍛えてくれました。
3. 言語化する
「なんとなくいい」「なんとなくダサい」を、言葉にする訓練をしてきました。
「この色が入っているから重たく見える」「この余白がないから窮屈に感じる」「このフォントが合っていないから安っぽく見える」
感覚を言語化できるようになると、自分の判断基準が明確になります。そして、クライアントにも説明できるようになります。
アートディレクター的役割へのシフト
この「審美眼」は、まさにアートディレクターに求められる能力です。
従来の構造はこうでした。
アートディレクター → デザイナー10人 → バリエーション → 選択・ブラッシュアップAI時代の構造はこうなります。
デザイナー(審美眼を持つ人) → AI → 大量のバリエーション → 選択・ブラッシュアップつまり、「手を動かすデザイナー」の役割はAIが担い、人間のデザイナーは「アートディレクター的な役割」にシフトしていく、ということです。
具体的には、
クライアントの文脈を読み解く
それをAIに伝わる言葉で伝える
出てきたバリエーションから「これだ」を選ぶ
さらにブラッシュアップする
この全工程に「20年鍛えた目」が必要になります。
「目利き」がないと何が起きるか
今回のクライアントの例がまさにそうですが、「目利き」がないままAIを使うと、ダサいものを「これでいい」と選んでしまいます。
AIは100パターン出してきます。その中には良いものもあれば、ダサいものもある。その「選別」ができないと、結局ダサいものが世に出てしまうのです。
これは、AIの問題ではなく、人間の問題です。
デザイナーの価値を言語化する重要性
今回の体験を通じて、もう一つ気づいたことがあります。
「デザインの価値を言語化して伝える」ことの重要性です。
私は20年間、「良いデザインを作る」ことに集中してきました。でも、「なぜこのデザインが良いのか」「このデザインがブランドにどんな価値をもたらすのか」を、クライアントにきちんと伝えてきたでしょうか。
もしかしたら、「見ればわかるでしょ」「プロに任せておけばいいでしょ」という態度だったかもしれません。
結果として、クライアントは「デザインの価値」を理解しないまま、「AIでも作れそう」と判断してしまった。
これは、クライアントだけの問題ではなく、私自身の反省点でもあります。
今後は、デザインの価値を言語化して伝えることも、デザイナーの仕事の一部だと考えるべきなのかもしれません。
「このデザインは、こういう理由でブランドに貢献しています」
「この世界観を維持することで、こういう効果が期待できます」
「AIでバリエーションを作る場合も、この基準で選ぶ必要があります」
そういった説明ができるデザイナーであれば、クライアントも「AIで代替できる」とは思わないかもしれません。
【結論】AIに仕事を奪われるのではない
ここまで書いてきて、私なりの結論が見えてきました。
「文脈を読む目」を持たない人がAIで自滅するだけ
「AIに仕事を奪われる」という表現は、少し違うと思っています。
正確には、「文脈を読む目を持たない人が、AIを使って自滅する」のです。
AIはバリエーションを量産できます。でも「この商品には何が合うか」は判断できません。その判断を間違えると、ブランドを壊すことになります。
今回のクライアントがまさにそうです。私が作った「土台」の上で、目利きのない実験が行われている。その結果、8割ダサいものが世に出ている。
これは「AIに仕事を奪われた」のではなく、「AIを使いこなせていない」だけです。
デザイナーは「手を動かす人」から「目を持つ人」へ
AI時代のデザイナーに求められるのは、「手を動かす能力」ではなく「目を持つ能力」です。
文脈を読む目
良し悪しを判断する目
ブランドを守る目
長期的な価値を見据える目
この「目」は、20年かけて良いものを見て、実践で失敗して、観察して、やっと身につくものです。
AIがどれだけ進化しても、この「目」を代替するのは難しいと思っています。
私は実験を見届ける
正直に言うと、今回の件で「活路」がはっきり見えたわけではありません。
クライアントがAIでバリエーションを量産して、それで売上が上がるなら、私の出番は減るでしょう。それはそれで、ビジネスとして正しい判断なのかもしれません。
でも、私の予測では、このまま続けるとブランドが毀損されて、長期的には顧客離れにつながると思っています。
そのとき、クライアントがどうするか。「やっぱりプロに頼もう」と戻ってくるのか、それとも別の道を選ぶのか。
私は今、その実験をリアルタイムで観察しています。
結果がどうなるかは、まだわかりません。でも、どちらに転んでも、学びはあるはずです。
まとめ
私のデザインがクライアントにAIでコピーされていた、という体験を通じて、いくつかのことが見えてきました。
【AIの得意・不得意】
得意:バリエーションの量産、「それっぽい」デザインの生成
不得意:文脈を読んだ最適解、「ダサい」の判断
【私がショックだったこと】
AIに仕事を奪われたこと自体ではなく、クライアントが「ダサいもの」を選んだこと
20年かけて作った世界観の価値が、伝わっていなかったこと
【AI時代にデザイナーに必要なこと】
審美眼(目利き力)
文脈を読む力
アートディレクター的な役割へのシフト
【結論】
「AIに仕事を奪われる」のではなく、「文脈を読む目を持たない人がAIで自滅する」
デザイナーは「手を動かす人」から「目を持つ人」へ
これからのAI時代、デザイナーとしてどう生き残るか。その答えは「目を鍛えること」にあると、今は思っています。


